2009年11月1日日曜日
2009年10月31日土曜日
COOL AND SIMPLE
僕らをつなぐもの 4
旅人の木
渋谷に戻ると猿楽町にあるGrapefluit Cafeにコーヒーを飲みにでかけた。
3階にあるこのカフェは僕のお気に入りのカフェのなかのひとつだ。いつも
コーヒーとスコーンをセットで頼む。スコーンは味がプレーンなのがいい。
窓際の席にすわり外の景色を眺める。明日の未明にはMeguはもうアメリ
カなんだな。そう思いながらコーヒーを口にした。
カフェの音楽がアコースティックギターのサウンドでとてもここちいい。
iPhoneを取り出し、フォトシェアで過去の写真を見る。自分で撮った写真
はみれたものでないが、Meguのはほんとうに素敵だ。ここ最近の日付のもの
のなかに僕あてのコメントの写真をみつけた。
「このあたりを見てね」Megu
そこに写っていたのはあのタビビトノキだった。そして写真にお絵描きソ
フトで矢印が描き込まれていた。矢印のさきが示している所は観葉植物の鉢
のあたり、根っこのあたりか。何か白いものが貼ってあるのが見える。なん
だろう。今度家に行った時確かめてみよう。
しばらくカフェですごした後、事務所へ向かった。今度開催されるデザイ
ンコンペティションへ提出する作品を練り直さなければならない。いつも僕
は早々に落選していたが、今回はなんとしても勝ちたかった。デスクに座り
パソコン画面に没頭した。
以前まではどうせ勝てないからと適当にしていたのだが、Meguと出会って
から気持ちが変わった。自分の仕事に責任をもって真剣に取り組んでいる姿
を見て僕もこのままではいけないと感じるようになったからだ。今度こそは
必ず勝って自分のものにしたい。その日は夜遅くまで集中力がとぎれること
がなかった。
あくる日からさっそくフォトシェアにはMeguのニューヨークでの写真が
アップされ始めた。毎日、毎日、何枚も何枚も。そしてコメントがこれだ。
「Kohこれ見て!かわいいよ」
「KohこのTシャツ似合いそう」
「Kohこのピザ大きすぎ!半分食べる?」
って食べれるわけないだろっ。ほんとにMeguは楽しんでるな。
行く先々でMeguのはしゃぐ声が東京まで聞こえそうだ。僕はかわりに自分
のヘン顔をアップしておいた。
「何それ、へんな顔!」Megu
「Meguばっかりずるいな」Koh
「だからKohもくれば良かったのに」Megu
「やっぱいいな、ニューヨーク」Koh
「明日はグリニッジビレッジへ行くよ」Megu
「気をつけてね」Koh
「ハーイ」Megu
こんな調子であっという間に1週間が過ぎていった。
Meguが帰る前日再びMeguの家に行った。観葉植物に水をやりながら写真
に写っていたあの白いものを探した。前見た時は気づかなかったが根っこの
部分に白い紙がたたまれて貼られている。
手に取って開いてみると、Meguの直筆の手紙だった。
「Kohへ
ずっと一緒にいようね Megu」
Meguも同じ気持ちだったのが何よりもうれしかった。直接面と向かって
言わずにこんなカタチで伝えてくるなんてMeguらしいな。
ベランダから見える東京の空はさわやかな秋晴れのブルーが広がっていた。
次の日は昨日とはうってかわって、朝から小雨がぱらついていた。気温も
ぐっと下がり、かなり冷え込んでいた。
僕は厚手のコートを車に積んで空港へ向かった。ワイパーの音が車内に小
さく響き、カーステレオの電源を押す。くるりの「ばらの花」がかかる。
たった1週間だけなのにMeguがそばに居ないとなんだかさびしかった。
フォトシェアなどでコミュニケーションをとっていても、やはり近くて遠い
気がしていた。リアルでないと満たされない心のスキマがあるように思う。
空港へ着いてMeguが到着するのを待った。
初めて会った日のことを思い出していた。そういえばなかなか現れない
Meguにヤキモキしていたな。あの出会いがきっかけで僕たちはつきあうよ
うになったんだよな。
「Kohーっ!」遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「Kohーってばー」
Meguだ。
「ただいまー」
「おかえり、疲れただろ」
「ううん、平気。それよりも早く帰ろうよ。Kohに見せたいものがあるの」
「何?」
「帰ってからのお楽しみ」
「何だか荷物が増えてるなあ」
僕たちはすぐ空港をあとにした。まっすぐMeguの家に向かった。
家にかえるやいなや、Meguはたくさんの荷物をかたっぱしから開け出し
てひとつひとつ取り出した。
「ほら、これみて!かわいいでしょ。赤ちゃんのためのおもちゃよ」
「これは絵本でしょ、あとこれはね、前かけに使うもので、ほら、プリン
トのイラストがかわいいでしょ」
「それにこれは・・・・・・」
なるほど仕事用のベビーグッズか。またたくさん買ってきたな。感心する
よ。
「それと、Kohに似合うと思ってこれ買ってきたよ」
「えっ、俺に買ってきてくれたの」
「今度はなくさないでね」
Meguが手にしたのは僕が前になくしたものとそっくりのキャップだった。
「あとね、Tシャツでしょ、ステッカーもあるし、ほらこれも」
「あっ、これ俺がずっと欲しいと思ってたデザインブックだ。ありがとう
Megu」
Meguは僕が以前から欲しいともらしていた本をちゃんと覚えてくれてい
たのだ。
「本屋さんをたくさん見てまわったら、ソーホーのショップに1冊だけあ
るのをみつけたの」
それにしてもベビーグッズと僕のために買ってきてくれたものばかりなの
でさすがに気になって聞いてみた。
「Meguのは?」
「えっ」
「自分のは何か買ってこなかったの?」
「あっ、忘れてた!」
「ほんとかよ」
そんなMeguがあまりにも愛おしくてギュッと抱きしめた。
「うっ苦しいよKoh」
そして僕たちはキスをした。時間がとまったように。
「そうそう、ちゃんと水をあげてくれた?」
「タビビトノキだろ、あげたよ、たっぷりと」
「・・・見た?」
「えっ、あっ手紙だろ」
「うん」
「うれしかったよ」
「ほんとに?」
「俺も同じ気持ちだったから」
「ほんとに、うれしい」
その夜、僕たちはお互いの愛を確かめあった。
2009年10月29日木曜日
2009年10月26日月曜日
「天神さんでイタリアン」
2009年10月25日日曜日
僕らをつなぐもの 3
二人の約束
それからしばらくはMeguのポータルサイトはアクセスが絶えなかった。
以外とベビーシッターの需要はあるものなんだなと驚いた。僕は仕事が
忙しくてなかなかMeguに会えないでいたが、フォトシェアを使ったり、
メールのやりとりでコミュニケーションをとっていた。あいかわらずMegu
の写真はかっこいい。
久しぶりに食事しようと誘い、Meguのいきつけの高輪にあるポルトガ
ル料理店「マヌエル」で待ち合わせた。約束の時間より早く着いてしまっ
たので、カウンターに座りかるくワインを飲むことにした。
店長の別府くんはワイン通なのでどんなポルトガルワインでも詳しく教
えてくれるので頼もしい。
「マヌエル」はポルトガルの家庭料理のカジュアルレストランだ。どの
メニューもすこぶるおいしい。干し鱈を使ったバカリャウが有名だが、備
長炭で鶏や魚を焼く炭火料理もオススメだ。僕は必ず生ハムを注文する。
別府くんに薦められた白ワインを飲みながらMeguがくるのを待った。
Meguは少し遅れてやってきた。いつものニコニコした笑顔で店内に入
るや「今日は飲むぞ!」とごきげんさんだった。そしてカマキリのラベル
の赤ワインを二人であけた。Meguもよくワインを飲んだ。この日は豆と
豚肉を一緒に煮込んだ鍋料理のフェージョアーダが最高にうまかった。
「ねえKoh、私来週からニューヨークへ行きたいんだけどいい?」
「えっ!ニューヨーク」
「うん、1週間くらい」
「仕事はどうするの?」
「ちょっとお休み。けっこうがんばったから」
「大丈夫なのかい」
「平気よ。みんなプロのベビーシッターさんたちだもの」
「いいけど何しにいくの?」
「買い物とか買い物とか買い物!」
「なんだよ、買い物だけかよ」
「うそっ写真も撮りたいし」
「ニューヨークかあ、俺も行きたいな」
「Kohも一緒に行く?」
「そんな急には行けないよ」
「そっか、残念!」
突然思いついたように言い出すからMeguにはいつも驚かされる。
「それでね、ひとつ約束してほしいことがあるの」
「なに?」
「約束っていうかお願い。私がニューヨークへ行っている間、私の家の観
葉植物にお水をあげてほしいの」
「なんだ、そんなことならぜんぜんいいよ」
「鍵をわたすからなくさないでね」
「あっそうか、勝手に入ってもいいの?」
「いいにきまってるでしょ、信じてるから」
「わかったよ、約束する」
僕はそうMeguに言われて観葉植物の世話をすることになった。
Meguの部屋は日当りの良い南向きの角部屋だ。築三十年の古いマンショ
ンだがきれいにリフォームされていて、さらにMeguが手を加えていたので
かなりいい物件に見える。雑貨好きの彼女らしく小物であふれている。
インテリアはどちらかというとナチュラルなものでまとめられている。イ
スだけはこだわったらしくチャーチチェアのアンティークがダイニングに置
かれていた。あめ色の感じが僕は気に入った。
けっこう広い間取りなので一人暮らしにしては贅沢だなと思った。僕のワ
ンルームの部屋とは大違いだ。ぐるっと見回してリビングのソファに腰かけ
た。
今朝、Meguはニューヨークへ旅立っていった。空港に送ってからすぐに
Meguの家に来たのだ。さっそく頼まれていた観葉植物にあいさつをするた
めに。
あれ?ないぞ。どこを見てもそれらしき植物が見当たらないのだ。おかし
いな。さんざん探したあげく、なんのことはないベランダにあった。たしか
南国育ちって言ってたか。どれどれどんな植物かな。・・・で、でかい。
その大きさは僕の身長を上回る高さで葉が船のオールのような形をしてい
て上へ上へと伸びている印象だ。名前が下のプレートに書かれてあった。
『Traveller's Tree』タビビトノキ
なるほど旅人の木ね。Meguにふさわしいな。よく見つけれるね、こうい
うの。
水を適量あげてからベランダからみえる景色に見入っていた。
港区の高層マンションや残された緑の木々たち。東京の街のどこにでもあ
る景色と高い空が僕の眼前に広がっている。しばらくベランダで過ごした。
なんでMeguは僕に観葉植物の水やりを頼んだのかずっと考えていた。考
えれば考えるほど分からなくなるのでそのままMeguの家をあとにした。