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2009年10月31日土曜日

COOL AND SIMPLE

生國魂神社(大阪市天王寺区)の近くにあるソーホーアートギャラリーが、移転して再オープンした。
前の場所から50メートル程同じ通りを移動しただけだが、1階にギャラリーを設け奥行きが広がった。
アーティストの海外進出も視野にいれた空間づくりをめざし、今後の発展に期待がふくらむ。

いつもウェルカムな笑顔で接してくれるオーナー夫妻
左・セリオ・バレットさん
右・中尾八千代さん

http://sohoartgallerycafe.blogspot.com

僕らをつなぐもの  4

旅人の木


 渋谷に戻ると猿楽町にあるGrapefluit Cafeにコーヒーを飲みにでかけた。

3階にあるこのカフェは僕のお気に入りのカフェのなかのひとつだ。いつも

コーヒーとスコーンをセットで頼む。スコーンは味がプレーンなのがいい。

 窓際の席にすわり外の景色を眺める。明日の未明にはMeguはもうアメリ

カなんだな。そう思いながらコーヒーを口にした。

 カフェの音楽がアコースティックギターのサウンドでとてもここちいい。

 iPhoneを取り出し、フォトシェアで過去の写真を見る。自分で撮った写真

はみれたものでないが、Meguのはほんとうに素敵だ。ここ最近の日付のもの

のなかに僕あてのコメントの写真をみつけた。

 「このあたりを見てね」Megu

 そこに写っていたのはあのタビビトノキだった。そして写真にお絵描きソ

フトで矢印が描き込まれていた。矢印のさきが示している所は観葉植物の鉢

のあたり、根っこのあたりか。何か白いものが貼ってあるのが見える。なん

だろう。今度家に行った時確かめてみよう。

 しばらくカフェですごした後、事務所へ向かった。今度開催されるデザイ

ンコンペティションへ提出する作品を練り直さなければならない。いつも僕

は早々に落選していたが、今回はなんとしても勝ちたかった。デスクに座り

パソコン画面に没頭した。

 以前まではどうせ勝てないからと適当にしていたのだが、Meguと出会って

から気持ちが変わった。自分の仕事に責任をもって真剣に取り組んでいる姿

を見て僕もこのままではいけないと感じるようになったからだ。今度こそは

必ず勝って自分のものにしたい。その日は夜遅くまで集中力がとぎれること

がなかった。

 あくる日からさっそくフォトシェアにはMeguのニューヨークでの写真が

アップされ始めた。毎日、毎日、何枚も何枚も。そしてコメントがこれだ。


 「Kohこれ見て!かわいいよ」

 「KohこのTシャツ似合いそう」

 「Kohこのピザ大きすぎ!半分食べる?」


 って食べれるわけないだろっ。ほんとにMeguは楽しんでるな。

 行く先々でMeguのはしゃぐ声が東京まで聞こえそうだ。僕はかわりに自分

のヘン顔をアップしておいた。


 「何それ、へんな顔!」Megu 

 「Meguばっかりずるいな」Koh

 「だからKohもくれば良かったのに」Megu

 「やっぱいいな、ニューヨーク」Koh

 「明日はグリニッジビレッジへ行くよ」Megu

 「気をつけてね」Koh

 「ハーイ」Megu


 こんな調子であっという間に1週間が過ぎていった。

 Meguが帰る前日再びMeguの家に行った。観葉植物に水をやりながら写真

に写っていたあの白いものを探した。前見た時は気づかなかったが根っこの

部分に白い紙がたたまれて貼られている。

 手に取って開いてみると、Meguの直筆の手紙だった。

 

 「Kohへ  

  ずっと一緒にいようね     Megu」


 Meguも同じ気持ちだったのが何よりもうれしかった。直接面と向かって

言わずにこんなカタチで伝えてくるなんてMeguらしいな。

 ベランダから見える東京の空はさわやかな秋晴れのブルーが広がっていた。


 次の日は昨日とはうってかわって、朝から小雨がぱらついていた。気温も

ぐっと下がり、かなり冷え込んでいた。

 僕は厚手のコートを車に積んで空港へ向かった。ワイパーの音が車内に小

さく響き、カーステレオの電源を押す。くるりの「ばらの花」がかかる。

 たった1週間だけなのにMeguがそばに居ないとなんだかさびしかった。

フォトシェアなどでコミュニケーションをとっていても、やはり近くて遠い

気がしていた。リアルでないと満たされない心のスキマがあるように思う。

 空港へ着いてMeguが到着するのを待った。

 初めて会った日のことを思い出していた。そういえばなかなか現れない

Meguにヤキモキしていたな。あの出会いがきっかけで僕たちはつきあうよ

うになったんだよな。


 「Kohーっ!」遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 「Kohーってばー」

 Meguだ。

 「ただいまー」

 「おかえり、疲れただろ」

 「ううん、平気。それよりも早く帰ろうよ。Kohに見せたいものがあるの」

 「何?」

 「帰ってからのお楽しみ」

 「何だか荷物が増えてるなあ」

 

 僕たちはすぐ空港をあとにした。まっすぐMeguの家に向かった。

 家にかえるやいなや、Meguはたくさんの荷物をかたっぱしから開け出し

てひとつひとつ取り出した。


 「ほら、これみて!かわいいでしょ。赤ちゃんのためのおもちゃよ」

 「これは絵本でしょ、あとこれはね、前かけに使うもので、ほら、プリン

トのイラストがかわいいでしょ」

 「それにこれは・・・・・・」

 なるほど仕事用のベビーグッズか。またたくさん買ってきたな。感心する

よ。

「それと、Kohに似合うと思ってこれ買ってきたよ」

 「えっ、俺に買ってきてくれたの」

 「今度はなくさないでね」

 Meguが手にしたのは僕が前になくしたものとそっくりのキャップだった。

 「あとね、Tシャツでしょ、ステッカーもあるし、ほらこれも」

 「あっ、これ俺がずっと欲しいと思ってたデザインブックだ。ありがとう

Megu」

 Meguは僕が以前から欲しいともらしていた本をちゃんと覚えてくれてい

たのだ。

 「本屋さんをたくさん見てまわったら、ソーホーのショップに1冊だけあ

るのをみつけたの」

 それにしてもベビーグッズと僕のために買ってきてくれたものばかりなの

でさすがに気になって聞いてみた。

 「Meguのは?」

 「えっ」

 「自分のは何か買ってこなかったの?」

 「あっ、忘れてた!」

 「ほんとかよ」

 そんなMeguがあまりにも愛おしくてギュッと抱きしめた。

 「うっ苦しいよKoh」

 そして僕たちはキスをした。時間がとまったように。

 「そうそう、ちゃんと水をあげてくれた?」

 「タビビトノキだろ、あげたよ、たっぷりと」

 「・・・見た?」

 「えっ、あっ手紙だろ」

 「うん」 

 「うれしかったよ」

 「ほんとに?」

 「俺も同じ気持ちだったから」

 「ほんとに、うれしい」

 

 その夜、僕たちはお互いの愛を確かめあった。



                                           

2009年10月26日月曜日

「天神さんでイタリアン」

大阪天満宮(大阪市北区)で25日、
イタリア料理を屋台で楽しむイベント
「天神さんでイタリアン」が開かれ、
境内をたくさんの人が訪れた=写真=

この日は穀物の収穫に感謝する秋大祭にあたり、市内のイタリア料理人でつくる「大阪イタリア料理人友好協会」
が「イタリア料理で大阪をもっと元気にしよう」と初めて企画した。

参加したレストラン9軒が、パスタや
リゾット、ライスコロッケなど一皿500円前後で販売。長い行列ができる時間帯もあった。
もちろんワインやビールもワンコインで飲めるとあって昼間からごきげんな笑顔があふれていた。

2009年10月25日日曜日

僕らをつなぐもの  3

二人の約束


 それからしばらくはMeguのポータルサイトはアクセスが絶えなかった。

 以外とベビーシッターの需要はあるものなんだなと驚いた。僕は仕事が

忙しくてなかなかMeguに会えないでいたが、フォトシェアを使ったり、

メールのやりとりでコミュニケーションをとっていた。あいかわらずMegu

の写真はかっこいい。

 久しぶりに食事しようと誘い、Meguのいきつけの高輪にあるポルトガ

ル料理店「マヌエル」で待ち合わせた。約束の時間より早く着いてしまっ

たので、カウンターに座りかるくワインを飲むことにした。

 店長の別府くんはワイン通なのでどんなポルトガルワインでも詳しく教

えてくれるので頼もしい。

 「マヌエル」はポルトガルの家庭料理のカジュアルレストランだ。どの

メニューもすこぶるおいしい。干し鱈を使ったバカリャウが有名だが、備

長炭で鶏や魚を焼く炭火料理もオススメだ。僕は必ず生ハムを注文する。

 別府くんに薦められた白ワインを飲みながらMeguがくるのを待った。

 Meguは少し遅れてやってきた。いつものニコニコした笑顔で店内に入

るや「今日は飲むぞ!」とごきげんさんだった。そしてカマキリのラベル

の赤ワインを二人であけた。Meguもよくワインを飲んだ。この日は豆と

豚肉を一緒に煮込んだ鍋料理のフェージョアーダが最高にうまかった。


 「ねえKoh、私来週からニューヨークへ行きたいんだけどいい?」

 「えっ!ニューヨーク」

 「うん、1週間くらい」

 「仕事はどうするの?」

 「ちょっとお休み。けっこうがんばったから」

 「大丈夫なのかい」

 「平気よ。みんなプロのベビーシッターさんたちだもの」

 「いいけど何しにいくの?」

 「買い物とか買い物とか買い物!」

 「なんだよ、買い物だけかよ」

 「うそっ写真も撮りたいし」

 「ニューヨークかあ、俺も行きたいな」

 「Kohも一緒に行く?」

 「そんな急には行けないよ」

 「そっか、残念!」

 突然思いついたように言い出すからMeguにはいつも驚かされる。

 「それでね、ひとつ約束してほしいことがあるの」

 「なに?」

 「約束っていうかお願い。私がニューヨークへ行っている間、私の家の観

葉植物にお水をあげてほしいの」

 「なんだ、そんなことならぜんぜんいいよ」

 「鍵をわたすからなくさないでね」

 「あっそうか、勝手に入ってもいいの?」

 「いいにきまってるでしょ、信じてるから」

 「わかったよ、約束する」

 僕はそうMeguに言われて観葉植物の世話をすることになった。


 Meguの部屋は日当りの良い南向きの角部屋だ。築三十年の古いマンショ

ンだがきれいにリフォームされていて、さらにMeguが手を加えていたので

かなりいい物件に見える。雑貨好きの彼女らしく小物であふれている。

 インテリアはどちらかというとナチュラルなものでまとめられている。イ

スだけはこだわったらしくチャーチチェアのアンティークがダイニングに置

かれていた。あめ色の感じが僕は気に入った。

 けっこう広い間取りなので一人暮らしにしては贅沢だなと思った。僕のワ

ンルームの部屋とは大違いだ。ぐるっと見回してリビングのソファに腰かけ

た。

 今朝、Meguはニューヨークへ旅立っていった。空港に送ってからすぐに

Meguの家に来たのだ。さっそく頼まれていた観葉植物にあいさつをするた

めに。

 あれ?ないぞ。どこを見てもそれらしき植物が見当たらないのだ。おかし

いな。さんざん探したあげく、なんのことはないベランダにあった。たしか

南国育ちって言ってたか。どれどれどんな植物かな。・・・で、でかい。

 その大きさは僕の身長を上回る高さで葉が船のオールのような形をしてい

て上へ上へと伸びている印象だ。名前が下のプレートに書かれてあった。

 『Traveller's Tree』タビビトノキ

 なるほど旅人の木ね。Meguにふさわしいな。よく見つけれるね、こうい

うの。

 水を適量あげてからベランダからみえる景色に見入っていた。

 港区の高層マンションや残された緑の木々たち。東京の街のどこにでもあ

る景色と高い空が僕の眼前に広がっている。しばらくベランダで過ごした。

 なんでMeguは僕に観葉植物の水やりを頼んだのかずっと考えていた。考

えれば考えるほど分からなくなるのでそのままMeguの家をあとにした。



 


2009年10月18日日曜日

中村義明 特別講演@滋賀 信楽町

 
京都の日本建築の老舗、中村外二工務店の二代目である中村義明氏の特別講演に行ってきた。
中村氏は四十年前、家業 中村外二工務店に入店以来、日本各地だけでなく海外も含め、二百棟を数える木造建造物の新築に従事してきた。大阪万博茶室が最初の仕事で、ニューヨーク ロックフェラー邸や日本各地の住宅や公共茶室、迎賓館、商業施設を施工、時には設計施工してきた人だ。
中村氏は講演のなかで、建築における物作りの原点は何かを話してくださった。
「それは建築に使用する『材料』そして『建築主』であります。建築の要素は、素材としての『材料』であり、その材料を加工する『技術』であり、材料の寸法と組み合わせの『調和』であります。
建築主の建物への思いや夢、そして建築主の美意識が建築物の骨格や装飾を創り上げる。
材料の出会いですら建築主の力量により生まれます。
物作りの人間は大いなる力量の建築主に巡り会えることが満足できる作品を創り出せる基であります」。
そして五感を使って建築物に接してくださいとも。何度も接しているうちに、その建築物の良さが分かってくるようになる。
値段やそういう価値観でしか見れない現状を嘆いていらしたが、本物を見る力は五感を使えば養うことができると。
なるほどいい建築物には必ずいい建築主の顔が現れている所以か。
今後の日本建築への見方が変わる講演内容だった。



2009年10月17日土曜日

僕らをつなぐもの  2


ココロに決めたこと



 そんな風にいきなり僕たちはつき合い始めた。Meguはほんとにいそ

がしく毎日を過ごしていた。僕は彼女のペースにしだいに巻き込まれて

いくことになる。

 僕は三十歳でまだプロダクトデザイナーとして駆け出しだった。日用

品などのどこにでもある製品を主にデザインしていた。その大半は百円

ショップに並んでいる。そりゃ本当は僕だって有名デザイナーのように

携帯電話や、オーディオ機器、パソコンやカメラなどのデジタル家電を

デザインしたい。しかし現実はそう甘くはないし、僕のようなデザイナ

ーはごまんと存在している。突出した何かがなければこの世界では成功

できないだろう。

 家と事務所が渋谷にあったので、アイデアに困ると街へ出て、ショッ

プをぐるぐる見て回りながら少ない知恵を絞りだしていた。

 流行がコロコロ変わり新しいものがすぐ古くなる街。くだらない刺激

だけはふんだんにあるくせにたいして中身などない。見栄と偏見のふき

だまりだなここは。

 それでも勉強にはなる。ものがあふれてるからね。

 消費されていく流行、ポップ。休むことなく続いている。そんな街の

なかで僕が一つだけこころがけていることが流されないことだ。

 渋谷という街はちょっと気を許すとすぐに流されてしまう危険をはら

んでいる。少年少女たちは流されっぱなしに見えてしかたがない。流れ

の中でいつか埋没していってやがて忘れ去られる。それが怖い。

 僕はできるだけ人とのつきあいを大切にしたいと考えている。仕事で

もプライベートでも、もちろん家族でも。だからMeguとのつきあいも

本当に大切にしたいと思っていた。Meguはどう思ってるかまだ知らな

いけど。

 ある休みの日曜日、代々木公園へ行こうということになって、午後か

らお弁当持参で出かけた。初秋にしては肌寒い気温だったが素晴らしい

秋晴れの天気だった。

 「あれ、今日はいつものキャップかぶってないんだ」

 「ああ、あれ、無くしたんだ、電車の中か、タクシーの中で」

 「もうしょうがないなあKohは」

 「だから最近はこればっか」

 少し大きめのニットのキャスケットをかぶりなおしながらMeguの顔

をのぞきこんだ。

 「Megu、ちょっと疲れてない?」

 「ううん、ぜんぜん平気。寝不足気味かな。」

 「だめだな、ちゃんと睡眠とらないと。とか言って俺も全然寝れない

日が続いてた。うまくデザインが仕上がらなくてイライラしてたんだ」

 「よし、今日はランチしたらお昼寝しようよ!」

 「それいいな、決定!」

 代々木公園は都心にありながら広大な土地にたくさんの緑がある癒し

スポットだ。芝生が比較的きれいな場所をさがして僕たちは腰をおろし

た。

 太陽の日差しがまぶしく木々の緑が光をさえぎるように風にゆらいで

いる。Meguのお手製弁当をひろげて遅めのランチを食べる。

 「この卵焼きうまいな。塩加減が絶妙だね」

 「あんまりほめてもなんにもでないからね」

 「ほんとだってば。まずかったらまずいっていうよ。親にだって意見

するよ、俺は」

 「おーこわい。ヘタなもの作れないね、Kohの前では」

 「ありがたくいただいてます」

 Meguの微笑みとおいしい手料理に僕は心底幸せを感じていた。Megu

の笑顔をみるのがなによりうれしいのだ。

 やがておなかがいっぱいになってゴロンと寝転んだ。

 「あー気持ちいい、最高だね。天気もいいしおなかもいっぱいになっ

たし」

 「すぐ寝ると牛になっちゃうよ」

 「はは。そんな人今まで一度も見たことないよ」

 「私はある」

 「うっそだー、あるわけないよ」

 「あるよー、・・・お父さん」

 「えっ?」


 風がここちよく吹いていたのでしらない間に眠ってしまっていた。

 Meguも横になっていた。そっと顔をのぞきこむとすやすやと吐息をた

てて眠っている。ふと気がついて左手を見るとMeguの右手が僕の手を握

りしめていた。白くてちっちゃなMeguの右手。僕は持ってきていた厚手

のストールをそっとMeguの肩にかけてあげた。Meguの寝顔を見ながら

僕はココロにある決意をしていた。

 

 いつまでも一緒にいたい。Meguとならどこへでもいけるし、どんなこ

とでも乗り越えられそうな気がする。 

 そしてまた横になってしばらく眠ってしまった。


Meguは一人でなんでもやってしまう行動派だ。ベビーシッターの仕事

も誰のつてでもなく自分で開拓してお客さんを増やしていった。

 最初の頃はなかなかうまくいかなかったらしいが口コミが徐徐にひろが

って小さなコミュニティができそれが後に大きな輪となって現在に至るま

でになった。やはりインターネットの功績が大きい。彼女のブログから情

報が発信されて、多くの子を持つ母親に共感を得ていったようだ。

 しかし一人で切り盛りするのがとうとう限界になってきて、それだった

ら他のベビーシッターさんにも仕事を手伝ってもらおうということになっ

た。そこで思いついたのがポータルサイトの運営だ。

 自分は裏方にまわって、仕事を必要とするベビーシッターさんに登録し

てもらいベビーシッターさんを必要とする親に紹介する。後は双方の面談

でお互いが納得した形で契約してもらうというながれだ。

 僕はデザインをやっていることもあってMeguにサイトのデザインを頼

まれたがなかなか時間をとれなくて協力できないでいた。そのうちしびれ

をきらしてやはりそれも自分で作ってしまった。さすがだ。尊敬するよ。

 ポータルサイトの名前のロゴにずいぶん悩んでいたみたいだったけど、

それもうまくいったみたいだ。サイト名は「imama.jp」。

 Meguの保育にかける情熱はひしひしと伝わってきた。そしてなにより

子供が大好きなところも。子供を見るときのMeguの瞳は誰よりもやさし

くおだやかだ。

 そんなMeguが僕はうらやましかった。中途半端な仕事しかできず、理

想だけは高くて努力していない自分が情けなくなった。俺はどうしたいん

だ。なにかひとつでもいいから突破したい。自問自答する日々がつづいて

いた。


 こんなことをMeguは言ったことがある。

 「私ね、小さいときよく怪我をしてたの。自転車の車輪に足をひっかけ

たり、あめ玉をのどにつまらせたり転んですりむくなんてしょっちゅう。

そんなときいつも母はやさしく介抱してくれて泣いている私をなぐさめて

くれた。母の深い愛情につつまれて育った今の私がいるの。感謝している

わ。だから子供にはたくさんの愛情をうけて育ってほしいの。その手助け

をベビーシッターという形でしてるのかな」

 確かに子供の頃に親の愛情をいっぱい受けて育った人に悪い人はいない

ような気がする。例外もあるけど。逆にそうでない人は自分が親になった

とき、子供にたいして愛情をそそいでいるのか疑問だ。虐待の問題を語る

ときに必ず子供時代の話がでてくるように。

 僕は普通に育てられて成長したと思っていたけど親が子供を育てるのは

大変なんだなとMeguの仕事に接するようになってわかってきた。生まれ

てからすぐ自立できない子供は親に頼って生きなければいけない。あたり

まえのことだがあたりまえすぎて親への感謝をわすれがちになる。今まで

誰に育てられてきたのか、誰のおかげで学校へ行き、社会人として自立で

きたのか。

 「私も母のような女性になりたい」と言ったMeguのコトバがココロに

残っている。







                                                     

2009年10月11日日曜日

僕らをつなぐもの

 

僕らをつなぐもの、それはインターネットを介して始まった。

 今から1年前の夏、日本にもiPhoneが上陸して一部では盛り上がっ 

ていた。

僕はずっと欲しかったので迷うことなく購入した。 iPhone

は携帯電話ではなく、手のひらサイズのパソコンといってもいいぐらい

の性能がある。少しおおげさかもしれないが、それくらいのインパクト

を僕たちにもたらした。機能では日本の携帯電話のほうが抜群に優れて

いるにもかかわらずだ。

 そしていろいろいじっているうちに様々なアプリケーションが登場し

てきた。いまでは6万5千種類にも及ぶ。そのなかで僕がお気に入りな

のは撮った写真を世界中の人に公開してシェアできる投稿アプリケーシ

ョンのBig Canvas PhotoShare(ビックキャンバス フォトシェア)

だ。

 誰でも今撮ったばかりの写真を投稿して公開でき、他の人が撮った写

真を閲覧してコメントすることができた。気軽に、簡単に。そしてコメ

ントを通じて世界中の人とコミュニケーションできるのが一番の魅力だ

った。地球の裏側に住んでいる人と会ったこともないのに、iPhoneを

使ってまるで友達のようにコミュニケーションできるなんてと最初は感

激していた。

 毎日のようにスナップ写真を撮っては公開し、コメントをもらう。ま

たお気に入りの写真にたいしてコメントする。そんなやりとりが続いて

いた。そんななか、一人の日本人女性の写真に目が止まった。

 彼女のネームはMeguといった。ちなみに僕はKohだった。Meguは

本当に素敵な写真をたくさんアップしていた。小さな小物からキャラク

ターもの、街の風景、なにげない日常を切り取った写真の数々。

 どれもが僕のココロをくすぐるものばかりでますます気になっていっ

た。もちろんお気に入りに加えて毎日チェックしていた。彼女のアップ

する頻度は他の人とくらべてもダントツで多かった。1日に何十枚も公

開している日もあったくらいだ。だから彼女の1日の行動が写真を通じ

てそれとなく分かるようになっていった。あまりにもプライべートを公

開していてこっちの方が心配になってしまう。でも特定の住所が分かる

画像やプライベートなものはさすがにアップされていなく、彼女もその

辺は心得ていたはずだ。それにしてもすごすぎる。

 ある日の写真は、朝、自宅の部屋で出勤前に鏡の前に立ち、顔がうま

く見えないように撮っていた。コメントが「支度ちう」だ。

 彼女のファッションセンスは素晴らしかった。僕好みといってもいい。

よく足元の写真をアップしていたので靴がセンスのいい物だなと感心し

ていた。ファッションは足元からとよくいったものだ。

 それよりも僕が何か一緒の感覚といったらいいのか、同じ価値観をも

っているなと感じる写真が多かったのがココロに引っかかっていた。ま

さか同じ本や映画をたてつづけに見ていたなんてそうあるもんじゃない。

どういったらいいのかわからないが、彼女のもっている世界観が、僕の

ものとリンクしているといったところか。とにかく彼女が気になってし

かたがなくて仕事にも集中できず、休憩中やお昼休み、家に帰ってから

も彼女の写真ばかり見るようになっていった。

 冷静に考えると、これってやばくないか、ヘタをしたらちょっとした

バーチャルストーカーじゃないか。いやバーチャルではないな。現実と

妄想の狭間か。僕は自分を戒めた。これ以上彼女の写真に深入りするの

はよそうと。

 そしてこれで最後と決めて一番お気に入りの写真にコメントした。

 「Meguっておとこまえだね」



コメントがココロを動かす


 「こらこら、一応これでも女だぞ」Megu

彼女のコメントに対する返答が書き込まれていた。いつも一行ですべて

を表現している彼女の写真のタイトルに僕は惹かれていた。今ではあた

りまえのように皆が使うようになった「○○○なう」も「○○ちう」も

彼女が使い出したからここまで広がったように思う。

 僕は正直に書き込んだ。

 「Meguの顔が見たい」Koh

 しばらくして1枚の写真がアップされた。Meguの顔写真だ。しかし

上からのショットでまぶたを閉じているためハッキリとわからない。

 まつ毛が長いな、と思った。きれいな肌をしている。あごが小さくきゅ

っとしている。ヘアスタイルがボブっぽいのも僕の好みだ。

 「瞳が見えないよ」Koh

 「今日はここまで」Megu

 「もったいぶるなあ」Koh

 「Kohが見せてくれたら私も見せる」Megu

 そんなコメントのやりとりを他の人につっこまれる。なかなか手強い。

 「僕の顔を見てノーコメントとか言わないでよ」Koh

 「見てから決める」Megu

 「よし、とっておきの一枚を撮ってやる」Koh

 僕は鏡の前に立ち、iPhoneのカメラで自分自身を撮った。顔がはっ

きり映るように角度に気を使いながら。

 顔を出すことのリスクはインターネットをやっている人なら分かると

思うが個人情報としてプライバシーをさらけ出すことになるので公開す

るのは勇気が必要だ。世界中の人が僕の顔を見ることにもなる。

 Meguの一言が僕のココロを動かした。投稿の完了を押す。

 「あんま、見るなよ」Koh

 公開しておいてその言い草はないだろと思われてもしかたないけど、

正直照れくさかった。

 しばらくしてコメントが書き込まれた。

 「Kohもおとこまえじゃん」Megu

 「もってなんだよ、もって」Koh

 僕は恥ずかしくて顔が熱くなっているのに気づいていた。

 「今度はMeguの番だよ」koh

 しかしその日はそれ以降Meguの写真はアップされなかった。あれだ

け期待させておいてそれはないだろと思っていた。くそっ。やっぱずる

いな、女は。


 それからしばらくはなぜかMeguの写真はアップされなくなっていた。

僕は気になっていたが仕事があまりにもいそがしくてチェックする日も

だんだん少なくなっていたのだ。僕自身もアップしていなかった。

 するとある日、久しぶりにフォトシェアを開くと、Meguの写真が大

量にアップされていた。なんと海外へ行っていたのだ。しかも西海岸だ。

アメリカはロサンゼルス。青い空と白い雲。いくつもの海岸線の写真は

どれも美しいものばかりだ。空港に着いてからホテルまでの道のりや、

景色をこれでもかとばかりに公開していた。ほんと、マイペースだね。

自由人だな、Meguは。僕はうらやましくも思えた。実際仕事もなにを

やっているのか分からなかったし、海外へ行く目的など知るよしもない。

 ただ、写真の撮り方が非常にうまかったのでプロのカメラマンか、写

真家かとも思った。いつだったか自分のカメラをアップしていたことが

あり、高そうな一眼レフを見たことがある。あくまで予想の域を超えな

いが、雑誌などの出版関係かなとも思ったりもした。

 ロサンゼルスの写真はそれから1週間ばかり続いてアップされていく。

うまそうなハンバーガーが登場するカフェやおしゃれなブティック、か

わいい雑貨屋さん。そこで売られている小物たち。ファンキーな兄さん

やポップなお姉さん。いい年のとり方をしている老夫婦。かわいくない

赤ちゃん。まっすぐのびているフリーウェイ。たくさんの風車がどこま

でもくるくる回っているパームスプリングスの風景。

 どれも僕を疑似バカンスへ連れていってくれるものばかりだ。いいな

あ、Meguは。

 「いつ日本へもどるの?」Koh

 「明日」Megu

 「おみやげは?」Koh

 「いっぱい買ったよ」Megu

 「僕のもある?」Koh

 「これでいい?」Megu

 そうコメントした写真に映っていたものは手のひらにちょこんと乗っ

たスマイルマークの黄色いバッジだった。

 僕はうれしくなった。うそでも僕のためにおみやげを買ってくれたな

んて。小さい手のひらにかわいく微笑んでいるスマイルくん。ほんとう

にくれたらいいのに。僕はたまらなくなってコメントした。

 「明日、迎えにいくよ」Koh

 「夜遅いよ」Megu

 「ぜんぜん平気だよ」Koh

 「私のこと見つけられる?」Megu

 「絶対見つけるよ、成田だよね」Koh

 「十時成田着、ノースウェスト305便ね」Megu

 「かならず見つけるから」Koh

 僕は興奮していた。Meguに会えるのだ。まだ顔も知らない何をして

いるかも分からない女性に知らず知らずの間に恋をしていた。はやく明

日にならないかな。気持ちを抑えきれないでいた。

 冷静になって考えたら向こうは僕の顔を覚えてたら知っているはずだ。

覚えてるのか、いや、もう忘れてるかもしれないな。けどこれだけコメ

ントしあう仲だから気づいてくれるだろう。そう自分に言い聞かせた。

結局その日はなかなか眠ることができなかった。



 必然の出会い


 Meguが帰国するまさにその日は朝から落ち着かなく仕事もままなら

ず、そわそわしていた。こんな気持ちは今まで感じたことがない。

 夜になり僕は空港へと車を走らせていた。一刻も早くMeguに会いた

い。だけど僕のことがはたして分かるのか。そしてMeguを見つけるこ

とができるのか、不安でいっぱいだ。考えながら運転しているうちに、

もう空港へ着いてしまっていた。

 平日の夜の空港は人影もまばらだ。今日は少し肌寒い。街灯のあかり

が弱々しく灯っている。ターミナルには見知らぬ外国人が聞いた事もな

いコトバで話し込んでいる。

 少し早めに着いたのでカフェでコーヒーを飲むことにした。コーヒー

を飲むと気持ちが落ち着くのだ。なぜかは分からないが昔からそうだ。

どんなに忙しい朝でもコーヒーだけは欠かさない。

 飛行機の離発着が眺めることのできる席に座り、滑走路を見ていた。

世界がここからつながっているのかと想いをめぐらせてやがてMeguへ

の想いにかわっていく。いったいどんな人だろう。いろんなことが頭の

中をかけめぐっていく。ワクワクする気持ちとドキドキする感じ。夜空

へテイクオフしていく機体が美しく、ランディング・アドバイザーの光

が遠くまで続いている。

 しばらくボーっと眺めていたら時間があっという間に過ぎていた。時

計をみると午後九時半になっている。確か十時だよな。カフェを出ると

ロビーに向かって歩いた。第2ターミナル北ウイングには迎えの人々が

少ないながらも帰国する人を待っている。僕もその中に混じった。

 やがて時計の針が十時ちょうどをさした。表示パネルがカタカタと音

をたてて回転している。ノースウェスト航空305便はすでに到着して

いる。まだ乗客は一人も出てこない。視線は出口ゲートにくぎづけだ。

 すると、一人の乗客が手荷物をかかえて出てきた。同時に何人もの乗

客がつぎつぎに出てくる。長旅のせいかみんな疲れた表情をしている。

このなかにMeguはいるに違いない。キョロキョロと僕は周りを見渡し

ながら探していた。しかしそれらしき女性はまだ見つからない。人の流

れもだんだん落ち着いてきた。本当にいるのか。不安がよぎる。

 乗客はすべて出てきたみたいだった。周りの人達もそれぞれ迎えるこ

とができた様子で次第に少なくなっていく。ついに僕一人になってしま

った。やはりダメだったか。僕のぬか喜びか。本気にした自分が情けな

い。大きく肩を落としてため息をついた。そしてもう一度ゲートに目を

向けて人がいないのを確認した。はぁーというしかない。

 帰ろうと振り返り駐車場へ向かおうとした次の瞬間、僕の前に一人の

女性が立ちはだかった。目に飛び込んできたその人は大きなカバンを抱

えてスーツケースの取っ手を握りしめていた。顔をみるとクルクルした

瞳でニコニコ微笑んでいる。一瞬で僕はその瞳に吸い込まれた。

 「Kohくん?」

 先に口を開いたのは彼女だった。

 「写真で見るよりおとこまえだね。」ハキハキとした口調に僕は自分

がなにをしゃべったらいいのか分からず、ドギマギしていた。

 「はい、これ。」彼女が手で差し出したものはあのバッジだった。写

真と同じように小さな手のひらに黄色いスマイルくんが微笑んでいる。

 「Megu?君がほんとにMeguなんだね。」

 「あたりまえでしょ。本人を前にして何それ?」

 「うわっゴメンっ。あまりにも突然だったからビックリしちゃって」

 「私はKohくんの写真をずっと見てたのよ。コメントもしていたし」

 「でも僕はMeguの顔、はっきりと見たの今が初めてだから・・・」

 実際初めて見るMeguは写真で見てたより細身で背が低い。でもブー

ツをはいているせいか高く見える。ショートボブのヘアーがかわいらし

くとても似合っている。やはりまつ毛が長い。口元は小さくて少しホク

ロがある。全体的に華奢な体型になるのかな。

 僕は差し出されたバッジを受け取って「ありがとう」と言った。

 「実は私、Kohくんに会いたかったんだ」

 彼女の口から以外なコトバがでたのでびっくりして、思わず「えーっ」

と叫んでしまった。

 「僕だってずっと会いたいって思っていたんだ。ここ何日かはずっと

Meguのこと考えてた。iPhoneの写真を見ながら」

 そう言うと彼女はポケットから自分のiPhoneを取り出してサッと指で

操作して僕にある画面を見せた。

 「ほら、お気に入り。Kohくんの。」

 なんと彼女もフォトシェアで僕の写真をお気に入りに加えてくれてい

たのだ。僕が今まで撮った写真がすべてMeguのiPhoneで見れるように

なっている。

 「Kohくんの写真ってなんか好きなんだよね。私と似てるっていうか、

視点っていうの?物の捉え方とか、構図とかが。なんか気になっちゃっ

て毎日のようにチェックしてたの。」

 「僕もだよ。Meguの写真を見て感性が似てるというか、世界観が素

敵だなあって。見ているうちに写している本人に興味がわいてきて会い

たいなって。」

 そう言った瞬間に僕たちは顔を見合わせて同時に叫んでいた。

 「これって運命!」

 笑いがこみ上げてきて二人して大笑いしていた。なんということだ。

こんなことってあるのか、いやこうして現実に巡り会っている。運命と

しかいいようのない出会いだ。まさに必然の。映画かマンガの世界だけ

にしかないと思っていた。本当にビックリだ。

 僕とMeguは駐車場に停めてある僕の車に向かった。

 「ほんとに送っていいの?」

 「ここまで来て歩いて帰れっていうの?」

 「違う、違う、初めてあった日にいいのかなあって」

 「初めて会った気がしないのよね。ずっと見てたから・・・」

 「あっそうか、その感覚、僕もある」

 「なんとなくKohくんの性格とかも分かるような気がしてて」

 「それって不思議だよね」

 「うん、不思議」

 車に乗り込んでゆっくりと空港を後にした。



 始まりはスマイル


 Meguの家は都内の静かな住宅地のなかにあった。空港からの帰り道

車中でお互いのことをたくさん話した。今までの人生がどんなものだっ

たか、家族のこと、友達のこと、仕事のこと。話しているうちにやはり

共通点がたくさんあることに気づいた。僕も次男で彼女も次女。自由奔

放に育てられて、ワガママなところとか行動範囲が広いとか、フットワ

ークが軽いなど。写真はどうやら趣味で撮っているらしく、仕事ではな

かった。Meguの仕事は以外にも元ベビーシッターだった。

 「今はね、ベビーシッターを紹介する仕事をやってるの」

 「斡旋ってこと?」

 「そうね。東京は保育所や保育園の数も少ないし、待機児童がますま

す増えているでしょ。だから働くお母さんのために自宅で子供の面倒を

みてくれるベビーシッターを紹介して少しでも安心してもらおうと思っ

て始めたの」

 「へえーっ、なんかすごいなあ」

 「でもね、なかなかうまくいかないよ、現実は。うまくマッチングで

きればいいけど、ベビーシッターだからって赤の他人でしょ。そういう

の嫌う人もいるしね。家の中に入られるのも嫌だって」

 「難しい仕事だね」

 「うん、でもやりがいはある」

 Meguの眼差しが真剣だったのを僕は見逃さなかった。

 「Meguっ、僕とつき合ってくれないか」

 「えっ」

 「だからつき合ってほしいんだ」とっさに僕はそう言っていた。

 迷いはなかった。直感的にMeguとならうまくやっていけると感じた

のだ。

 少しだまってから僕に向かって言った。

 「束縛しないって約束できる?」

 「約束するよ」

 「ほんとに?」

 「ほんとに」

 「じゃあ、よろしくね」

 そう言うと手を差し出した。Meguの小さな手と僕のごつごつした手

が重なった。握手してMeguの顔を見ると、僕のために買ってきてくれ

たスマイルバッジのようにニコッと微笑んでいた。

 車を家の前に停めて荷物を降ろし、玄関まで送っていった。

 「今日は本当にありがとう」

 「突然あんなこと言って平気?」

 「うん、私のほうこそ、いいのって」

 「いいにきまってるよ」

 「わがままだよ」

 「僕も」

 そう言うと二人して笑っていた。真夜中近くの空気はピンと張りつめ

ていて頬をきゅっとしめてくれるが、この時ばかりはゆるみっぱなしだ

った。



  

 

 








                                                     


2009年10月10日土曜日

ぼちぼちいこか



新しくブログを開設した。もう一つの「ええ加減を愛する男になりたい」は友人との往復書簡だが、こちらは単独のブログになる。気長に続けていこうと思うのでどうかヨロシク。