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2009年11月8日日曜日

僕らをつなぐもの  5

ずれた時間


 あまりにもうまくいきすぎている気がしていた。ただMeguのまっすぐ

な気持ちに圧倒されていたのかもしれない。僕は甘えていたと思う。そし

て人生の決断をせまられることになろうとはその時はまだ分からなかった。

 僕はデザインコンペで最終選考まで残ることができた。明日勝負が決定

する。社内の誰もが今回のおまえは違うぞと言ってくれた。だがもう一人

の人はいつも採用されているベテランだ。勝てる見込みは無いに等しい。

 翌日、担当上司から名前を呼ばれたのはやはりベテランの先輩だった。

 さすがに疲れてデスクでぐったりしていたらその先輩から声をかけられ

た。おまえの作品を見て今回は正直あせったと。次はおまえだな・・・と。

 少しホッとして気持ちが楽になった。


 その日の夜、一人で西麻布のバーテーゼへ飲みにでかけた。この界隈は

僕が夜の遊び場として頻繁に通っているところだ。Meguとはあまり一緒

にこない。バーテンダーでモデルの仕事もやっているTussyがカウンター

にいた。このテーゼは、ブックバーと名乗っているとおり可動式の本棚が

備え付けており、たくさんのかっこいい本が揃っている。

 「こんばんわ、Kohさん。元気ですか?」

 「Tussyもあいかわらず、元気そうだね。ジムには通ってるのかい」

 「今、減量中です。来週から撮影なのであと3キロ落とそうとがんばっ

てます」

 「すごいね。よくやるよ。俺はぜったい無理だな」

 「Kohさん、何します?」

 「そうだな、じゃあストーンローゼスのジンジャー割り」

 「わかりました」

 生の生姜をすりおろしていれているこのカクテルはすっきりしていて、

疲れている時によく注文する。

 その夜は調子がよかったのか、かなりの量を飲んでいた。完全に酔って

いた。

 「Kohさん、さっきからあの人がずっとKohさんのこと見てますよ」

 Tussyに言われてカウンターの端を見ると、確かにこっちを向いている

二十代半ばか後半ぐらいの女性がいた。

 「Kohさんになにか言いたげですよ。どうします?」

 「どうするって?」

 「ちょっといってきます」

 「ちょっ、Tussyまてよっ」

 なかば強引にTussyに会話をもっていかれたので僕はあせった。すると

自分のグラスを持って僕の横にその女性は座った。

 「こんばんわ」

 「あっこんばんわ」

 「私、Kaoriっていいます」

 「Kohです。ここにはよく飲みに来るの?」

 「たまに。雰囲気が好きだから」

 「僕も本が好きなんで・・・仕事は何をしてるの?」

 「お茶の水でベネチアングラスのショップの店員してます」

 「そうなんだ。僕はデザイナーです。渋谷で働いてます」

 お互いの自己紹介の会話がつづいて、趣味や好きな音楽や映画の話で盛

り上がった。

 「Kohさん、素敵ですね」

 「そんなこと言われると照れるよ」

 「でも私、タイプかも」

 Tussyは気を使ってカウンターの端へ移動していた。すっと膝の上に彼

女の手がすべるように触れてきた。僕はドキっとしながらもその手をとっ

ていた。もはや本能にさからうことができない状態になっていた。

 テーゼを出てそのままホテルへ直行していた。僕はMeguを裏切ってし

まった。

 

 


 



                                           

2 件のコメント:

  1. 男はタイミングさえあれば、いつでも浮気するんやな。

    コー君、モテモテやね。

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  2. あーわーわーー。 そんなぁ〜。
    酔った勢いとは、まさにこんな感じなのかしら…。
    続きが気になります。

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