こころの傷
目が覚めると、自宅のベットの上にいた。頭が割れるように痛い。二日
酔いのようだ。飲み過ぎたな。そう思って起きようとすると、人の気配を
感じた。
狭いキッチンのところに誰か立っている。誰だろう。まだ夢をみてるの
か、頰をパンとたたいた。どうやら夢ではない。
「あら、起きたの?」
そこにいたのはKaoriだった。
「あの、俺、昨日酔っぱらってて・・・」
「Kohさんだいぶ飲んでいたみたいね。大丈夫?」
「えっあっうん、ここは俺の家だよな。君がいるってことは俺昨日・・・」
「お酒に酔った勢いでってとかなしにしてね・・・フフ」
「あっ君は確かテーゼで声をかけてきた・・・」
「Kaoriよ、名前忘れてない?」
「いや、そんなことは・・・」
「はい、コーヒー。冷蔵庫に何も入ってないわね、何もつくれないから
コーヒーだけとりあえずいれたわ」
「あっありがとう」
僕はようやく事の大きさに気づいた。説明しなければ、いやどうしよう。
「彼女、いるんでしょ」
「えっ」
「分かるわよ、そのくらい」
「あの、俺」
「別にいいのよ、私は」
なんでこうもドライでいられるのか僕には理解できなかった。昨日の印
象とは別人のKaoriがそこにいた。
「私、帰るわね」
「俺、君に」
「お互い様っていうことで」
「え?」
そう言うとさっさとKaoriは出て行った。しばらくあぜんとしていた。
Kaoriが出て行った後、iPhoneを手にとって見てみると、Meguからの
メールが何件もはいっていた。俺はなにをやってるんだ。激しい自己嫌悪
に胸が痛んだ。
Meguに電話をかける。何度も呼び出し音は鳴るが、でない。留守電に
切り替わった。もう一度かけるが同じだ。メールしてみても返信されない。
僕はMeguに気づかれたかもしれないと思った。もうこうなった以上正
直に言って謝るしかないと自分にいいきかせた。その日は結局Meguに連
絡がとれなかった。
翌日、Meguは実家に帰っていたことが分かった。後で会う約束をする。
そして僕たちは恵比寿にある小さな公園のベンチにいた。
「Megu、何度も連絡くれたのに返事しなくてごめん」
「何かあったの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「Koh、様子がヘンだよ」
「えっ」
「なんかいつもと違うよ」
「そうかな」
「なんか、私に言えないことでもあるの?」
「そっそんなのないよ」
とっさにでたコトバに嘘がでてしまった。
「ウソはいやっ! Kohおかしいもん、ぜったい」
「・・・・・・」
Meguの瞳に大粒の涙があふれ、こぼれ落ちた。
「ごめん、俺酒に酔っぱらって行きずりの女と・・・」
「Kohのバカ、信じてたのに」
その場に泣き崩れるMeguにどんなコトバをかけていいのか分からなか
った。ただ謝るしかなかった。
「私、今日はKohに大事な話をしようと思ってきたのに・・・」
「大事な話って?」
「もういい、もういいよ」
女がきりだす大事な話はたいていの場合、別れ話かもしくは妊娠、ニン
シン? ほんとに?
「たのむよ、Meguっ、話してくれないか」
「Koh、私とずっと一緒にいたいって言ってたのに・・・私、私・・・」
「Megu、まさかその・・・」
僕はMeguの目をまっすぐ見つめた。Meguは赤い目をこすりながら静
かにコクリとうなずいた。
「そうなの?」
「母に相談しに行ってたの。一緒に産婦人科へ行ってもらって。2ヶ月
だって・・・」
「俺、知らなくて・・・」
「もういいよ、私、一人で育てる!」
「そんなっ・・・」
頭が真っ白になるってこいうことをいうんだなと思った。と同時に鈍器
で後頭部をおもいっきり殴られたような衝撃が走った。
「一人にして」
そう言うとMeguはその場から立ち去った。
僕はしばらく公園のベンチに座ったまま動けなかった。ため息を何度も
何度もついていた。
大切なものを僕は失いかけていた。
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